食道裂孔ヘルニア
本日は比較的珍しい病気をご紹介します。
胸とお腹を隔てている横隔膜にはいくつかの孔が開いています。
血管、神経、食道が通るための孔です。
その中でも、食道の通り道である食道裂孔から胸腔内へ胃が逸脱してしまった症例です。
推定8歳の保護猫さんです。
体重減少と頻回嘔吐、下痢を主訴に来院されました。
身体検査では以前と比べると体重は減っているものの、腹囲の膨らみがみられました。
また、軽度の流涎もみられました。
レントゲン検査では大量の腹水と胃の胸腔内への逸脱を疑う像が確認されました。
そのため、嘔吐は胃の胸腔内への逸脱が原因と考えました。
(正確には嘔吐ではなく吐出の可能性を考えました。)

血液検査では大きな異常はみられなかったので、緊急手術として試験開腹を実施しました。
開腹すると、やはり胃は胸腔内へ逸脱していました。
胃の一部を優しく掴み、ゆっくりと腹腔内へ戻しました。

胃の整復後、食道裂孔に相当する部位に指が入る程度の孔が確認できました。
また、腹膜や複数の臓器の表面に多数の白色結節病変がみられ、小腸の一部である回腸に肥厚した部位が確認されました。
消化管同士は塊状に癒着していました。
腹腔内での広範囲の炎症(腹膜炎)のために、腹腔内臓器の可動性が低く、ヘルニア孔(胃が飛び出ていた穴)の縫合は困難でした。
しかしながら、ヘルニア孔の縫合なしではまた胃が逸脱する可能性がありました。
そのため、胃が動かないように胃固定術を実施しました。

腹腔内の白色結節病変と回腸の肥厚、これまでの消化器症状を総合すると、腺癌とその腹膜播種の可能性が高いと考えました。
胃を固定した後に、白色結節病変を採材し、お腹の中を洗浄し、手術を終了しました。

手術後は食道経由での食事を控えたかったので、鼻カテーテルを胃に直接挿入し、食事のケアができるようにしました。

最終的には自らご飯を食べれるまでに回復してくれましたので、退院となりました。
白色結節性病変の病理検査は、「腺癌の播種」でした。
回腸に腺癌が発生し、腹膜播種を起こし、腹膜炎や腹水貯留によって腹腔内圧が上昇したことで胃が胸腔へ逸脱してしまったものと考えました。
術後の検診でも食道裂孔ヘルニアの再発はみられず、嘔吐(吐出)は概ねコントロール出来ていました。
今回ご紹介した食道裂孔ヘルニアは比較的稀な病気ですし、様々な原因で発症します。
嘔吐や体重減少が続く際は、ご相談ください。
副院長 藤田