消化器型リンパ腫と消化管穿孔
猫ちゃんの診察で最も多く遭遇する悪性腫瘍に「リンパ腫」というものがあります。
リンパ腫は免疫細胞の1つであるリンパ球が「がん」になってしまう病気です。
リンパ腫は発生部位などにより様々なタイプに分かれます。
その中でも消化器型リンパ腫はよく遭遇するタイプの1つで、消化管(胃と小腸にできることが多い)に発生するものを消化器型リンパ腫と呼びます。
リンパ腫は発生部位の他に、大細胞性か小細胞性か、T細胞性かB細胞性かそれ以外か、など、様々な情報に基づいて分類することができます。
これらの分類は、治療反応性の予測や生命予後の予測に重要な情報となります。
今回は、消化器型リンパ腫ができてしまい、消化管穿孔を起こした結果、緊急手術となった症例をご紹介します。
10歳の避妊雌、アメリカンショートヘア―の子です。
朝から元気と食欲がないとのことで来院されました。
腹部超音波検査で、小腸の一部に異常に肥厚した部位を認め、その部位での層構造の異常がみられました。
また、腹水もみられたため、腸の肥厚した部位での消化管穿孔(腸に穴が開いている)が強く疑われました。
血液検査では低アルブミン血症がみられましたが、その他大きな異常はありませんでした。
検査結果からは、小腸の悪性腫瘍が穿孔し、細菌性腹膜炎を生じている可能性が高いと考えられました。
手術なしではほぼ100%近日中に亡くなると予想される状態でした。
とはいえ、手術リスクも非常に高いため、飼い主様も悩まれていましたが、最終的には手術を決断して下さいました。
手術は穿孔している消化管の切除、吻合術となりました。
破けている消化管には大網が癒着していたため、大網を含めて切除し、見た目上は異常のない消化管同士を縫い合わせました(吻合)。


術後3日程度は予断の許さない状況が続きましたが、何とか乗り越えてくれました。大きな合併症もなく、術後6日目で退院となりました。
切除した腸は病理検査に出しており、「大細胞性リンパ腫」という診断でした。
また、クローナリティ検査(T細胞かB細胞か調べる検査)も行い、「T細胞性」ということがわかりました。
最終的な診断としては、「大細胞性T細胞性消化器型リンパ腫」となります。
病理検査の結果として、消化管のリンパ腫は完全切除できていましたが、「漿膜面を越えて周囲の脂肪へ浸潤」というコメントがあり、腫瘍細胞が体内に残っている可能性が考えられました。
そのため、飼い主様とご相談し、術後の抗がん剤治療を無理のない範囲で行っていくことになりました。
リンパ腫の抗がん剤治療にはいくつかのプロトコール(治療法)があります。
今回は「L-アスパラキナーゼ」という酵素の抗がん剤を使うことになりました。
比較的副作用が少なく、ある程度の効果も期待できます。
また、血液検査のためだけの通院がない分、飼い主様や猫ちゃんの負担も少な目です。
術後約6ヶ月の時点では、再発や転移はなく、元気に過ごしてくれています。
当院ではリンパ腫に限らず、様々な悪性腫瘍における外科手術や抗がん剤治療を行っております。
治療や診断で不安なことがあるときは、お気軽にご相談ください。
もちろん、ちいさなイボでも気になる際はご相談ください。
副院長 藤田